鍛えたって小さな存在

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ガン随筆

1年前の今日、胸腺腫の手術を終えて、退院した日だ。

不織布の薄いフンドシに長めの甚平を着て手術室に入ったっけ。
硬い手術台の上に寝て、薄い布を一枚かけられたらすぐ、フンドシも甚平も脱がされた(実際は前をはだけただけだと思われる)。

(うっわー心もとな)と思ったら、鼻と口をマスクで覆われ、「酸素が入りまーす」と言われる。酸素はどんな匂いなのだろうか、何か視界がスッキリしたりするのだろうかと意識して吸ってみるが本当に無味無臭だった。

次に「麻酔を入れまーす」と言われる。いよいよかと思って天井を見てた。

次の記憶は手術が終わったところだ。朦朧とした意識の中でストレッチャーに移されたような気がする。
次の記憶は病室で2人の女性看護師が身体中のチューブを確認していた。フンドシも甚平もはだけた状態で最後に看護師が聞く。
「大丈夫ですか、今のご気分はどうですか?」
「は、恥ずかしいです」と」言ってやった。

眠いと感じる間も無く一瞬で意識がなくなる。手術が終われば再び薬品で意識を戻される。
その間に口から喉を通して酸素吸入用のカテーテルを通したり、胸を4箇所切って様々な機器を入れて臓器を切り取ったり・・・文字通り自分の生殺与奪権を他人に奪われた数時間だ。

Gunオヤジは少林寺拳法の高段者だ。若い頃はオープントーナメントの空手大会で入賞したこともある。40年以上武道で鍛えて腕には少々覚えがあったがそんなの関係ない。
人はかくも小さな存在なんだと思い知らされた。

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