大学生の頃、友人に「腕に字が書いてある」と言われたことがある。
実はGunオヤジは左腕に「不可忘」とナイフで切った痕がある。
Gunオヤジには兄がいる。両親は考え方が古く、そして兄弟の扱い方に必ず差をつける長男重視の家だった。ただこの差別が子供心を傷つけた。
そして両親が可愛がったその長男は残念なことに弟の私から見ても幼稚で我儘な人間だった。弟を守る気などなく、弟を妬んだり、なにかにつけて足を引っ張ったり。
その兄は良い大学を卒業している。ただ大学に入るまで4年も掛けている。当然会社に入っても同期は4つも年下、先輩は3つも年下。上手くいくわけがない。しかも就活時に失敗したため銀行員になったものの、入行10年後には銀行統合であえなく退職。以来再就職もせず、バイトで食いつないでいるらしい。
アラ還の今に至るまで一度も一人暮らしの経験がなく、社交性もなく、結婚したこともない。そもそも常識的な口の聞き方すらできない。
甘やかされた挙句、典型的な「負け組」人生を歩んでいる。
ただそんな兄を相変わらず両親は可愛がっている。
Gunオヤジに親が愛情を注いでくれなかったとは言わない。ただ明らかに差があり、可愛がるのは長男、我慢させるのは次男という方針だった。まるでスペア扱いだった。
おかげで早い頃からGunオヤジには「自立心」が育った。一方の「家族に対する絆の薄さ」も刷り込まれてしまった。
あれはGunオヤジが大学に進学するかしないかの頃だったろうか。何かがあってその母親に兄と比較され酷いなじられ方をされたことがある。どうも母親は兄が成功していると勘違いしていたみたいだった。
しかし、その言い方のあまりの酷さにGunオヤジは怒りを堪えられず「不可忘(忘るべからず)」と自分の左腕にナイフで彫った。そしてタワシでゴシゴシと擦って傷が消えないように広げた。
痛かった。体の痛みで心の痛みを忘れさせるような行為だった。
時折傷跡を見つけては、そんな昔を思い出すことがある。
でも、55歳になった今では傷もだいぶ薄くなってきた。傷と同時に悔しかった記憶もだんだんと不鮮明になってゆく。
忘却は人を助けてくれる。
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